この5月、前作『秒速5センチメートル』(07年)から実に4年ぶりとなる、新海誠監督の最新劇場版アニメーション『星を追う子ども』が全国公開される。幼い頃に父を亡くし、また、幻の地下世界アガルタからやって来たという少年シュンと心を通わせるも、突然の別れを経験してしまった少女・アスナ。彼女がその寂しさに突き動かされるように、シュンの弟シンと、地下世界の伝説によって亡き妻との再会を願う教師モリサキと共に、アガルタに旅立つファンタジー作品だ。
『ほしのこえ』(02年)や『雲のむこう、約束の場所』(04年)のようなSF、そして『秒速~』や『彼女と彼女の猫』(00年)など、日々の生活の中に潜むかすかな幸せや痛みを描く"私小説的"作品で国内外で熱い支持を集めてきた新海監督。その新作が、少年少女のファンタジックな冒険譚とはなんとも驚きだが、当の本人は「画面のルックはずいぶん変わったかもしれないけど、やっていること自体はそんなに違わないんじゃないかな、って思ってますけどね」と、涼しい顔を見せている。
確かに今作においても、新海は平板な道徳観や倫理観を振りかざしたりはしていない。新海作品の評価を決定づける大きなファクターである圧倒的な映像美の中、流血も辞さないハードな打撃格闘戦や、命からがらの逃亡劇など、いかにもアニメ映画的なド派手なアクションを繰り広げる一方で、何くれとなく世話を焼き、気にかけてくれる家族や友人に囲まれていても、どうしようもない寂しさを抱えてしまうアスナや、死者に拘泥するモリサキのような、ともすれば心の弱く見える人々に対しても、常に優しいまなざしを向け続ける。