──主演を兼ねた新作映画『アキレスと亀』の出来に手応えを感じているらしく、撮影スタジオに現れた北野武監督は、大物感を漂わせながらも終始機嫌よく、撮影とインタビューに応じた。2007年のベネチア映画祭では前作『監督・ばんざい!』にちなんだ 「監督・ばんざい!」賞が新設され、2008年のモスクワ映画祭では特別功労賞を受賞。海外での評価はますます高まる一方だ。赤字にならない限り自由に作品を撮ることが許されている希有な映像作家・北野武は、今、新しいステージに向かおうとしている。
(写真/田中まこと)
これまで以上に北野監督らしい作品であると同時に、これまでになく北野映画らしくない。矛盾した言い回しになるが、北野監督の通算14本目となる『アキレスと亀』は、そう表現するしかない。北野映画らしく濃厚な血の匂いで彩られながらも、難解さは影を潜め、明快なエンディングが待ち受けている。
『TAKESHIS'』『監督・ばんざい!』と2作続けて映画を破壊する行為に取り組んできた北野監督の内面に、何か変化が起きているのか? 「アートは麻薬」「数学者になるのが夢だった」と語る北野監督の言葉からは、"天才"の人生観がリアルにうかがえた。