のりピーや押尾の事件のせいで、妙に薬物に詳しくなってしまったのは私だけではないですよね。ドラッグの単位は「パケ」だとか、イビサ島に行くと何か楽しいことがあるとか、髪を染めれば検査に引っかからないとか、豆知識が増えるに従い、ドラッグへの興味が募る日々。のりピーを見ると、スタイルも保っているし、キレイだし、若いし、楽しそうだし、ドラッグって結構いいのかも、と心の中の悪魔が囁きます。ドラッグ仲間と秘密を共有することで親密度も深まり、ハイになって自分を解放できます。私に足りないものはドラッグな気がしてきました。でも、犯罪行為に手を染める前に、ドラッグで天国や地獄を経験した人の話を聞いてみたいと思い、最近ニュースによく出ていた、民間の薬物依存リハビリセンター日本ダルク本部【註1】を訪れました。
荒川区の大通り沿いに「日本ダルク」のビルが佇んでいました。中に入ると猫や犬もいてピースフルな雰囲気です。今回話を伺ったのは、K田さんという年上の女性。今はダルクでコーディネイターとして仕事をしていますが、これまでの人生は波乱に満ちたものでした。
「12歳の時、両親が別居し、北九州に引っ越したんです。場所柄、カタギじゃない人が多い環境で、中学に入ってから、学校になじめず、暴走族と友達になったりして、不良行為をするように……。万引き、タバコ、シンナー、家出もしょっちゅうで、親に捜索願を出されました。児童相談所や教護院に入れられてもそこも抜け出して、不良の先輩の家を転々としていたらヤクザと知り合い、『行くとこないならついておいで』って言われたんです。そこで、ヤクザに『お願いだから』って土下座されて、覚せい剤【註2】を打ったのが初体験で……。結局覚せい剤で2度逮捕され、刑務所に入りました」
展開が激しくてついていけないのですが、そのヤクザはついていきたくなるくらい男前だったのでしょうか? そして、シンナーもたしなまれたとさらっとおっしゃいましたが、シンナーはどのような作用があるのか、中学時代『ホットロード』を読んで密かにヤンキーに憧れていた私にぜひ教えてください。
「ヤクザはかっこいいわけでもなかったです。中学生が珍しかったのかチヤホヤしてくれました。覚せい剤は、大人の男がそこまでして頼むのなら、と思って使ってしまいました。シンナーは意識がボーッとして楽しくなります。酩酊状態で幻覚も見えますよ。でも、歯がボロボロになったり脳が萎縮したり、体へのダメージが大きいです」
シンナーは中学生でもできるくらいリーズナブルなのでしょうか?
「ちょっと前の価格だと、トルエンがオロナミンCの瓶1本分で2500円くらいでしょうか。ボンドでも同じような作用があります。あとマニキュアの除光液も危険です。それからガス……カセットボンベのガスをビニール袋に入れて吸うと一酸化炭素中毒の手前でクラクラして意識が朦朧とします。制汗剤やライターのガスも同様の効果です。ただガスはやめづらいですね。ガス中毒の人はラリって自分がガスを吸っていることを忘れてタバコに火をつけ、爆発して大惨事になることも……」
「気持ちいいのは初めだけ」知識なく8割が依存症に
ドラッグ代用品の知識がインプットされてしまい、また悪魔が蠢きそうですが、自爆はイヤなので手を出さないようにしたいです。ところでK田さんが使われていた覚せい剤は、どんな作用があるのでしょう? のりピー【註3】も常用していたそうですが……
「体や頭がスッキリしますね。周りが鮮明に見える感じ。性的快感が高まるけれど、羞恥心がなくなって理性がきかなくなる。それでハマっちゃう人は多いです。あと、食欲がなくなるので痩せますね。集中力も高まりますが、3~4時間もメイクをしていたり、一晩中風呂掃除をしていたり、時間の感覚がなくなります。覚せい剤は使い始めはハイになっても、だんだん体が慣れてバッドトリップにいってしまう。こんなはずじゃないと思ってまた使ったり、別のアッパーになる薬もチャンポンで使うようになります。でも、最初の多幸感は決して戻ってこないんです」
集中力や快感が高まる効果を聞いて気持ちがゆらいできましたが、禁断症状はやはりつらいものなのでしょうか?
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「薬が切れると泥のように眠ります。目が覚めると、異様に喉が渇きますね。あとはイライラするとかダルいとか……でも、4~5日で回復します。禁断症状がそんなに重くないのも、覚せい剤をやめられない原因なんです【註4】。精神的な依存度が高いので、8~9割の人が再び手を出してしまいます。あと、犯罪行為をしているという意識から、挙動不審になったり被害妄想が激しくなったりもします」
K田さんが見せてくださった、ダルク入寮者の体験談の本には「お前を殺す」という声が脳内で響いて暴れたり、追跡妄想から捨ててあったセーラー服を着て街を逃げ回ったり、注射跡を消そうとして腕に熱した天ぷら油をかけたり、壮絶な手記が収められていました。ほかにも、薬代でお金がなくなって土手で寝ていたらホームレスに弁当を恵んでもらった人、7回も刑務所に入った人、薬代を稼ぐために強盗を繰り返した人など、薬物中毒者は人生の堕ち方が半端ありません。全財産を注ぎ込んで、ジェットコースター人生のスリルを楽しんでいるようなものです。それも急降下する一方の……ドラッグの最大の副作用は運が悪くなることかもしれません。そうK田さんに言うと、「もともと悪いものを摂取しているので、運が良くなるわけがないです。やることがすべて裏目に出てしまうんです」と、説得力のある言葉が返ってきました。のりピーや押尾を見ても運気が急降下しているのは明らかです。運が悪くなると知って、薬物への憧れが急速に萎えていきました。ドラッグから完全に足を洗った今は、人生が順調だとほほえむK田さん。「現実逃避したい時は山とか、自然の中に行くとほっとします。あと、快感を得るなら、マラソンのランナーズハイとか、サーフィンもいいみたいですよ。あと、レッドブルもハイになりますね」
わざわざ違法薬物に手を出して運気を下げなくても、世の中には気持ちが良くなることがたくさんあります。私も、締め切りの達成感ハイくらいにしておきます……。やっぱり脳内麻薬が最高にCOOLです。
[註1]日本ダルク本部
同じ悩みを抱えた仲間と共同生活し、日々ミーティングをすることで薬物依存症からの回復を促します。職員はダルクの12ステップのプログラムによって回復した元薬物依存者によって構成されていて、定員は12名で24時間サポート体制。入寮費は1カ月16万円。その中から毎日、1日のお小遣い2000円を手渡しているそうです。
[註2]覚せい剤
覚醒作用、幻覚作用、麻酔作用を持つ、覚せい剤取締法第二条で指定された薬物の総称。日本で最も多く流通している違法薬物だそうです。 大麻やヘロインを使っている人は覚せい剤をダサいと思っていて、覚せい剤の摂取方法も、注射はダサくてあぶりはCOOL、 コカインはあまり流通していなくて高いのでセレブ向け、など薬物によってランクがあるとか。
[註3]のりピー
1年前のテレビのインタビューで、ろれつが回っていなくてハイテンションだった様子は、見る人が見ればわかる異様さでした。 「似た人がダルクにもいたけど、覚醒剤と精神安定剤を一緒に使っていたんじゃないかな」と、K田さんは推測。ほかにも常用者を見分けるポイントは、
●日本語が支離滅裂になる(コカインの場合)
●目線が定まらないと思ったら、急に一点を見つめだす
●しゃべり方がおかしくなる
●「何か持ってない?」が挨拶がわりになる
●ドラッグ臭をごまかすため、お香臭くなる(大麻の場合)
など……周りの業界人をチェックしてみてください。
[註4]やめられない原因
ドラッグ経験者は、お互い雰囲気でわかるので、また売人が寄ってきてしまうのもやめにくい一因です。刑務所の中での交友関係でドラッグとの腐れ縁がつながってしまうことも。
今回匿名で話をしてくださったK田さん。
「刑務所の中で、反省している人はほとんどいませんでした。またやろうって話ばかりです」(K田さん談) 覚せい剤は一回でもやると、とにかく頭の中がクスリのことでいっぱいになってしまうそうです。
「のりピーの反省の会見を観ましたが、言動が不自然だし、逮捕された人は大体同じようなことを言うけど、また手を出してしまうんですよね……」(同)
のりピーもダルクに入って1日3回のミーティングを受けたほうがいいかもしれません。
しんさん・なめこ
1974年生まれ。東京生まれ埼玉育ち。漫画家・エッセイスト。 セレブ、スピリチュアル、女磨きなどをテーマに、数々の作品を発表。「週刊文春」など多数の雑誌で連載記事を持つ。主な著書に、 『女修行』(インフォバーン)、『女の人生すごろく』(マガジンハウス)、『開運修業』(講談社)など。
取材協力/日本ダルク本部 〒116-0002 東京都荒川区荒川3-33-2
TEL:03-3891-9958 e-mail:darc-dmc@diary.ocn.ne.jp
衣装協力/GINZA TOBIZO 45 TEL:03-3571-3945