(撮影/粟根靖雄)
ファンタジー映画の鬼才ギレルモ・デル・トロ監督は、ハリウッドスタイルとは一線を画すこだわり派の映像作家だ。「宮崎駿サンが参加していた東映アニメを、子どもの頃から見ていた」と語る、熱烈な日本アニメファンでもある。
ハリウッドで最も多忙な男と呼んでいいだろう。昨年、『パンズ・ラビリンス』が世界的な成功を収め、『The Hobbit』『フランケンシュタイン』など、2017年までファンタジー大作の契約がぎっしり詰まっているギレルモ・デル・トロ監督。マイク・ミニョーラ原作のアメコミを映画化したシリーズ第2弾『ヘルボーイ/ゴールデン・アーミー』の主人公ヘルボーイは、地獄生まれのアメリカ育ち、ちょんまげを結った風変わりなヒーローだ。メキシコ生まれで、現在はハリウッドを拠点としているデル・トロ監督の分身でもある。
「体がデッカくて、部屋の片付けができない点もボクとヘルボーイはそっくり(笑)。それにボクが作る映画はアメリカ映画でもないし、メキシコ映画でもない。ヘルボーイもそう。人間の心を持っているけど、決して人間にはなれない。そういう点でも、ボクらは似ているんだよ」
大の日本アニメ好きで有名。本作に出てくる奇妙なクリーチャーたちは『もののけ姫』や『千と千尋の神隠し』を連想させると伝えると、つぶらな青い瞳をまばたかせた。
「宮崎駿サンは、ボクが一番影響を受けたクリエイター。ボクの映画を見て宮崎作品を連想するなんて、光栄なことだよ。決して意識したわけじゃないけど、映画って製作者が意図した以上のものを見る人が読み取るもの。そうして考えてみると、『パンズ・ラビリンス』も宮崎作品に通じる部分があるかもねぇ。ちなみにシリーズ第1作の『ヘルボーイ』は、東映アニメ『長靴をはいた猫』(69)をオマージュしているんだ(笑)」
『デビルズ・バックボーン』や『パンズ・ラビリンス』ではスペイン内戦を時代背景にするなど、デル・トロ作品は戦争の影がちらつくのも印象的だ。
「モラルが崩壊した現代社会は、一種の内戦状態といえるんじゃないかな。でも、ボクが描きたいのは大きな戦争ではなく、小さな戦争なんだ。ボクたちの日常生活って小さな戦争の連続であり、さまざまな決断の積み重ねで成り立っていると思うんだ。それこそが本作のテーマであり、僕自身のテーマでもあるんだよ」
デル・トロ監督自身、これからハリウッドの巨大映画産業との"戦争"に挑むことになる。
「確かにそうだね。期待に応えられるよう、頑張るよ!」
メキシコで日本のアニメや漫画を見て育った、心優しきビッグガイ。ヘルボーイのように、ハリウッドでますます暴れ回ってほしい。
(長野辰次)
ギレルモ・デル・トロ
1964年、メキシコ生まれ。米国で特殊メイクの第一人者ディック・スミスに学び、監督デビュー作『クロノス』(92)はカンヌ映画祭批評家週間グランプリに。『ブレイド2』(02)、『ヘルボーイ』(04)などのヒット作を放つ。『パンズ・ラビリンス』(07)はアカデミー賞撮影賞ほか3部門を受賞した。
自然を破壊する人類に対し、魔界の王子(ルーク・ゴス)は無敵軍団ゴールデン・アーミーを復活させようとするが、超常現象捜査防衛局「BPRD」に所属するヘルボーイ(ロン・パールマン)らが行く手を阻む。デル・トロ監督らしい、ユニークなクリーチャーが続々登場!