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2010年話題の賢人がセレクトするタブー破りの本300冊【2】

ジャーナリスト・上原善広が選ぶ3冊 水木しげるのうさん臭さを追求した白眉のルポ

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──批評家による禁断のアーティスト本、大宅賞作家が選んだ禁忌な一冊、さらには、ネット発のカリスマバンドメンバーから人気グラビアアイドルまで、今年の賢人たちが選んだヤバい本を一気にレビュー!

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上原善広(うえはら・よしひろ)
73年、大阪府生まれ。フリージャーナリスト、ノンフィクション作家。大阪体育大学卒業後、中学校非常勤講師などを経て、取材・執筆を開始。主に自らも育った被差別部落をテーマに活動を続け、10年に『日本の路地を旅する』(文藝春秋)で第41回大宅壮一ノンフィクション賞受賞。(写真/新潮社)

■落語家、小説家の壮絶な生きざまと水木しげるの知られざる裏面史

 まず紹介したいのは、上方落語家・桂雀々さんの自叙伝『必死のパッチ』【4】。バラエティ番組のレポーターとして、関西出身者なら誰もが顔を知っている彼の、壮絶な半生が描かれています。その内容は、『ホームレス中学生』(ワニブックス)の比ではありません。借金苦により母が逃げて、父が家を出て、雀々少年は近所の人のお世話になりながら、中学1年生でひとり暮らしを始める。そこから落語に出会うまでの話です。

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2010年話題の賢人がセレクトするタブー破りの本300冊【1】

批評家・佐々木敦が選ぶ3冊 エイズで亡くなった"幻のアーティスト"伝記

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──批評家による禁断のアーティスト本、大宅賞作家が選んだ禁忌な一冊、さらには、ネット発のカリスマバンドメンバーから人気グラビアアイドルまで、今年の賢人たちが選んだヤバい本を一気にレビュー!

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佐々木 敦(ささき・あつし) 
64年、愛知県生まれ。批評家、HEADZ主宰。雑誌「エクス・ポ」、「ヒアホン」編集人。新聞、雑誌で文芸批評を行うほか、早稲田大学、武蔵野美術大学の非常勤講師を務める。近著に『ニッポンの思想』(講談社現代新書)、『文学拡張マニュアル ゼロ年代を超えるためのブックガイド』(青土社)など。

■モンドマンガ的遅咲きの異才、音楽の鬼才、哲学の異端が面白い

 今回選んだ3冊は、それぞれに違った意味でヤバい本です。

 1冊目は『洞窟ゲーム』【1】というマンガで、作者は「月刊漫画ガロ」の後継である「アックス」(共に青林工藝舎)で活躍中のまどの一哉。マンガはよく読むほうではないのですが、書店でたまたま見つけて、編集者・マンガ原作者の竹熊健太郎さんとSF作家の北野勇作さんが帯で褒めていたことから手に取りました。

 ポイントは、まず作者が76年にデビューしており、34年目にして初の単行本であること。それゆえ、絵柄がまったく今風ではなく、劇画とマンガが区別できていなかった当時を偲ばせます。また内容的には、良い意味で精緻に構築されたSFとは異なり、どこか投げやりなところにヤバさがあります。

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タブー破りの"スポーツ"本

木村元彦×岡田康宏──中田英寿はいずれ大山倍達に!? "作られたヒーロー"の虚像を壊せ

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──人種問題、商業主義、スターシステム......。スポーツ界には触れてはいけない領域が数多く存在する。『オシムの言葉』著者・木村元彦と、「サポティスタ」の編集人・岡田康宏が、タブーなスポーツ本をめぐって徹底議論!

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負けたのに、五輪出場を決めた谷亮子。
そしてそこに、なんら突っ込みを入れない
メディア。トヨタという巨大企業の威光を背
景にした、まさにスポーツタブーである。

──北京五輪(08年7月当時)が近づいていますし、スポーツ関連の書籍が、多く出回るかもしれません。しかし、ここ数年はスポーツもので目立った本は見当たらないような気がしますね。

木村 スポーツライティングは、取材対象のアスリート個人に寄っていくものが多い。ただ、今のスポーツ界の現状だと、選手本人がいて、代理人がいて、チームがいて、それらすべてのチェックが通らなければ本にはならない。こういった現状だと、スポーツジャーナリズムとしてタブーを破るような本は、世に出にくいですよね。

岡田 木村さんは、原稿チェックとかどうしているんですか?

木村 基本的には「ゲラを見せてほしい」という選手の取材はやりません。原稿チェックがどうしても必要な場合でも、事実関係以外は変えません。そういう意味だと、『大山倍達正伝』【1】は幾多も出版されたひとりの人物ノンフィクションの終着点です。大山倍達の本は、『空手バカ一代』をはじめ数多く出ているけど、彼の実像をきちんと描いている本はほとんどなかったから、すごいですよね。

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タブー破りの"人気企業"本【2】

代理店を変えた日産への仕返しにスキャンダルを雑誌に掲載させた!? タブー企業"電通"の強さの秘密

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汐留にそびえ立つ電通本社ビル。コネ入
社も多いが人気は高い。

──電通が大手マスコミのタブーであることは、もはや説明不要だろう。ゆえに、その内実がマスコミで語られることもほとんどない。だが、そこにすら斬り込めるのが、経済小説の強みだ。

電通による「一業種複数社」の問題を取り上げた経済小説がある。逢坂剛の『あでやかな落日』【10】も、そのひとつだ。

「日本の広告会社の仕事はアメリカあたりと違って、すべて信義の上に成り立っている。つまり一業種複数社の仕事をしながら、競合メーカーの情報は絶対に漏らさない、という暗黙の了解がある」(同書より)

 ところが、この信義に背くように、アウロラ電器の情報が外部に漏れ始める。どうも取引をしている広告代理店に問題があるようだ。そこで、アウロラは、一業種複数社を抱えるこの大手代理店を嫌い、業界第2位の代理店を選ぶ──。これは、1992年に日産自動車が、電通と手を切り、博報堂に代理店を乗り換えた騒動がモチーフになっている。

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タブー破りの"人気企業"本【1】

電通・みずほ・トヨタ・ANA......経済評論家・佐高信に聞く、巨大企業の「裏の顔」とは?

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──言わずもがな、マスコミ最大のタブーは、広告という「飯のタネ」を提供してくれる数々の大手企業のスキャンダルだ。特に就職先としても人気の高い優良企業は、膨大な広告費を持つゆえ、いいイメージばかりが流布される。「裏の顔」があることは誰もがわかっているのに......では、そんな虚飾に満ちた企業の実態を知るに最適な本はないものか?

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(正木 猛/写真)

そこで、"企業に最も嫌われている評論家"として、忌憚ない企業批判を展開してきた佐高信氏の元を訪ねた----。

佐高(以下、) そもそも、いまだに若者には、企業、特に日本を代表するような大企業は素晴らしいものだという誤解があるよね。でも、企業は、封建制で成り立っているもの。江戸時代の藩と一緒なんだよ。トヨタ藩であり、松下藩である。だから社長は世襲が多いし、従業員には言論の自由もないから、企業にとって不都合な情報は表に出にくい。そんな中で、企業の実態を知るために読むべきなのが、経済小説だね。

──でも、小説ということは、フィクションですよね?

 いや。経済小説は、基本的に実在する企業や人物をモチーフにしているし、ノンフィクションより緻密な取材をしている。売れっ子作家は、取材費もそれなりにかけられるから、情報も濃い。一方、ルポやノンフィクションの場合は、広報部を通して企業内部を取材をすることがほとんどだ。そのほうが楽だし、訴訟などのトラブルも避けられる。雑誌を持つ大手出版社は、広告的な付き合いもあるしね。でも、それじゃ、企業側に都合の悪いことは書けっこない。

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"日本史改革"を叫ぶアツき漢たち【3】

現役高校教師・河合敦氏が語る歴史教育──「歴史の変化」は入試を変えるか?

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──昨今の歴史学説の変化は、大学入試にどのような影響を与えているのか?最新のセンター試験問題を、歴史研究家にして現役高校教師でもある河合敦氏が徹底レビュー!!

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↑画像をクリックすると拡大します。
図Aは、11年度のセンター試験「日本史A」の問題より。
「センター試験にゴジラが登場!」と話題になった。図
Bは、08年度のセンター試験「日本史B」の問題より。
歴史の知識のみならず、古文の知識も要求される。

大学入試センター試験に関していうと、特に原始・古代の分野で顕著ですが、研究や技術の進展によって定説が変わったり、揺らいだりしている部分については出題を避ける傾向が強いですね。実際、ここ2~3年は特に原始に関する設問はほとんどなく、センター試験の受験テクニックとしては「旧石器時代はほぼスルーでいいよ」と教えています。

 反対に、近年のセンター試験は近現代史重視で、従来はせいぜい70年代のオイルショック止まりだったのが、ついに11年度の「日本史A」では、大正から平成にかけての家庭における情報受容の状況に関する問題として「1990年代にはパソコンが急激に普及し、家庭における通信や情報収集にも用いられるようになった」という一文まで登場しました。高校時代、授業時間が足りずに昭和以降を教えてもらえないのが普通だった僕ら世代からすると、図Aのように、『ゴジラ』や『鉄腕アトム』のような近年の娯楽が立派な歴史の問題として出題されるというのにはやや違和感がありますが、これは学界からの要請ではなく、学習指導要領で近現代重視の方針を打ち出した文部科学省の意向だと思います。その背景には、「縄文時代なんかより、現代に近い時代の歴史のほうが実生活や将来に生かしやすいだろう、今がどう形成されたかがわかるだろう」という国の認識があるわけです。

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"日本史改革"を叫ぶアツき漢たち【2】

「日本は軍部が暴走して戦争を選んだ」は嘘!世界的権威からルーキーまで、日本史"改革者列伝"

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──本文中でも述べた「歴史の改革者」たちのうち、オススメ研究者を勝手に推薦。この6人についていけば、歴史はもっと面白くなる!?

歴史人口学の世界的権威

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【1】速水 融(82)
はやみ・あきら
1929年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。同大学名誉教授。
09年に文化勲章受章。専攻は歴史人口学、経済史。

旧:「江戸はエコな文化都市」

新:「江戸京坂では人が死にまくり!!」

 速水の最大の業績は、50年代にフランスで提唱された歴史人口学を日本に導入し、「人口」という視点から近世を読み解いたことだ。例えば、江戸時代後期の日本の人口は2600万人前後で大きな変動なく推移したとされていたが、速水は、宗門改帳をもとに地域別に人口変動を分析し、実は多くの農村では人口は増え、逆に関東と近畿で減っていたことを立証。そこから、当時の100万人都市(江戸と京坂)は死亡率が高く、恒常的に都市以外の人口を労働力として吸い込むことで成立していたとする「都市アリ地獄説」を提起した。

 同説は欧州の学界にも共鳴現象を生み、同様の「都市墓場説」が提唱された。

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"日本史改革"を叫ぶアツき漢たち【1】

1970年代以降、"歴史"は激変!?「江戸は人を殺す」と喝破する、日本史の"改革者"たちを見よ!

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──司馬遼ブーム、吉原ブームに歴女歴ゲー。オンナ子どもからオッサンまで、日本人は歴史が大好き。だが、巷間語られる「日本史」が、最新の歴史学の常識からは程遠いものだとしたら? 「実証主義」と「マルクス史観」に支配された戦後日本の歴史学をぶち壊してきた、偉大なる歴史の改革者たちをとくと見よ!!

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『平清盛 前編』(NHK出版)。

 戦国時代を題材とした『戦国BASARA』(カプコン)を始めとするゲーム・小説の流行や、2005年頃から続く"歴女"ブーム、NHKのテレビドラマ『坂の上の雲』(09年11月~11年12月放映)のヒットなど、昨今、オヤジ世代のみならず若年層にも大人気の日本史。古今を問わず日本史は、エンターテインメントのいちジャンルとして広く国民に親しまれてきた。

 だが、それはあくまで社会一般のレベルに限っての話。『古事記』『日本書紀』の昔から、歴史というものには本来的に、国家が国民をひとつのアイデンティティのもとに統合するためのツールという側面がある。事実、戦前・戦中に興隆した皇国史観が国民を戦争へと駆り立てる精神的基盤となったように、歴史のそうした機能が時の為政者たちに利用されてきたことを忘れてはなるまい。だからこそ、特に戦後、あまたの歴史家たちが、既存の歴史の"改革者"となるべく学究の世界に身を投じ、地道な研究と熾烈な論争を重ねてきたのだともいえる。そして、後述のように教科書や一般の歴史認識との乖離が問題視されているとはいえ、現在の歴史学界の最先端を行く学説こそ、そうした"改革者"たちの栄光と挫折とをないまぜにしてようやく形作られた"血と汗と涙の結晶"なのである。

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医療破綻を食い止める気鋭のドクター

疲弊しきった医師たちと、行き詰まる病院医学界に風穴を開ける救世主は現れるか?

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『医療大崩壊』(講談社文庫)。

──かつては世界トップレベルの技術を誇った日本の医師たち。だが、医療費抑制政策により手厚い医療制度に陰りが見え、医療崩壊が叫ばれている。こうした中、破綻寸前の医療制度に光明をもたらす医師たちはいるのだろうか?

 1990年代後半以降、「医療崩壊」という言葉を耳にするようになった。その根底には、長年の医療費抑制政策による医師の人手不足がある。既存の中型総合病院では、ひとつの科につき医師が1~2人というところが増え、昼夜を問わず休みを取れない医師は疲弊。これにより医師のモチベーションの低下、さらには救急患者の受け入れ拒否などといったさまざまな問題が噴出し、マスコミを賑わせてきた。そうした「医療崩壊」が叫ばれる中、追い討ちをかける問題が噴出しており、それが、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)への参加表明だという。

 11年11月、野田佳彦総理はTPP協議への参加を表明。これに対して日本医師会は「国民皆保険の堅持、医療の安全・安心の確保が約束されない限り、参加を認めることはできない」との懸念を示した。TPPへの参加は、日本の医療に一体どのような変化をもたらすのか? 医療経営雑誌「クリニックばんぶう」(日本医療企画)の清水大輔編集長が考えるシナリオはこうだ。

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科学界のインディ・ジョーンズがサラリーマン学者に喝!

生物学者・長沼毅vsサイエンスライター・植木不等式──「地球外生命体はすぐそこにいる!?」

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(写真/田中まこと)

──味のある科学者がリーマン研究者に埋もれてしまった日本の科学界では、宇宙や生命の謎を解き明かせない?研究所を飛び出し、地球を回り続ける生物学界のインディ・ジョーンズと、ユニークな視点で科学と非科学のはざまに切り込むサイエンスライターが、21世紀の科学革命に迫る!

植木不等式(以下、植木) 先生は、地球生命の起源が宇宙から来たという、いわゆるパンスペルミア説を支持されていますよね。個人的には、この説を唱える人は変人揃いというイメージなのですが(笑)、支持される理由を教えていただけますか?

長沼毅(以下、長沼) 地球起源説もパンスペルミア説も、厳密に評価すると、現状ではどちらともいえないはずなんです。にもかかわらず、「地球のことは地球で」という人たちが主流派を占めていて、それ以外の可能性に言及しないどころか、ほとんど「生命が地球外から来るなんてありえない」という感情論で排除している。それに対して僕は「合理的に、理性的に話し合おうよ」と言いたいので、あえてパンスペルミア説のほうを支持しているんですよ。

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