哲学者・萱野稔人の“超”現代哲学講座
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萱野稔人の"超"現代哲学講座 第10回

東電の情報公開はネットの勝利なのか? 政治の本質を無視した集合知の幻想を暴く!!

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国家とは、権力とは、そして暴力とはなんなのか......気鋭の哲学者・萱野稔人が、知的実践の手法を用いて、世の中の出来事を解説する──。

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第10回テーマ「ネット上の集合知は権力に勝るのか?」

今月の副読本
『社会契約論』

ルソー著/岩波文庫(54年)/720円

フランス革命の原動力になったとも言われる、ジャン=ジャック・ルソーの代表作。一般意思を説きながらも、政治の本質を強調し、肯定する同書の思想は、現代までにつながる民主主義に多大な影響を与えた。


 前回は、インターネットを通じた情報の暴露や漏洩が、政治にどのような影響をもたらすのかを考えました。ウィキリークスのような暴露サイトまで存在するようになったことで、各国の政府は今後、情報の公開を前提として行動せざるを得なくなります。たとえ特定の情報を機密にするにしても、政府はなぜその情報が機密扱いとなったのかを潜在的には説明する責任を負わなくてはならなくなりました。機密情報もまた、常に暴露や漏洩によって公開される可能性にさらされているからです。

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萱野稔人の"超"現代哲学講座 第9回

政府の説明責任が問われる時代! ウィキリークスは国家主権を揺るがすのか!?

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国家とは、権力とは、そして暴力とはなんなのか......気鋭の哲学者・萱野稔人が、知的実践の手法を用いて、世の中の出来事を解説する──。

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第9回テーマ「ネットの台頭で崩壊する情報の独占」

今月の副読本
『技術への問い』

マルティン・ハイデッガー著/平凡社(09年)/2940円

 ドイツの哲学者・ハイデッガーによる、公演や論文をまとめた論集。技術が先鋭化の一途をたどる近現代において、時代の根本にあるもの、そしてその正体を見極めるべく、"技術の本質"に哲学的に迫った一冊。


 2010年はインターネットを通じた情報漏洩事件が立て続けに起こった年でした。日本でも、10月に国際テロに関する警視庁公安部の捜査資料がインターネットに流出したり、11月には、尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件の映像が、海上保安官の手によって動画共有サイトに公開され、流出しました。世界中にインパクトを与えたのは、なんといっても、ウィキリークスが10月下旬に40万点にも上るイラク戦争関連のアメリカ軍資料を、11月下旬には25万点に上るアメリカ外交公電を暴露したことでしょう。この暴露に対して、クリントン国務長官はただちに「暴露は米国の外交上の利益に対する攻撃というだけではなく、国際社会、同盟国、パートナーに対する攻撃でもある」とウィキリークスを非難しました(11月29日の記者会見)。イタリアのフラティニ外相に至っては、これを「世界の外交における『9・11』のようだ」とまで評しました。

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萱野稔人の"超"現代哲学講座 第8回

エジプト反政府デモが世界の経済システムを揺るがす!? 民主化をめぐるアメリカの誤算とは

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国家とは、権力とは、そして暴力とはなんなのか......気鋭の哲学者・萱野稔人が、知的実践の手法を用いて、世の中の出来事を解説する──。

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第8回テーマ 「アメリカの覇権、その正当性」

[今月の副読本]
『千のプラトー 資本主義と分裂症』上巻
ジル・ドゥルーズ、フェリックス・ガタリ著/河出文庫(10年)/1260円
複雑に入り組んだ資本主義のダイナミズムをさまざまな手法で読み解いた著者らによる代表作のひとつ。抽象機械や戦争機械など、新たな概念を持ち込んだ、現代人のための倫理指針としても名高い一冊。


 2011年になって中東地域が一気に揺らぎ始めました。まずはチュニジアで大規模な反政府デモが勃発し、23年も続いたベンアリ政権が崩壊しました。次にエジプトでも反政府デモが全土に広がり、30年にわたって強権支配を続けてきたムバラク大統領は、次期大統領選には出馬しないことを表明しました(2月1日現在)。こうした反政府デモの動きは中東各地に飛び火し、この地域の長期独裁政権を次々と揺るがしています。例えばイエメンでも、南北イエメン統合後約20年にわたって大統領の地位に就いていたサレハ大統領が、任期が終わる13年で退陣することを表明しました(2月2日)。ヨルダンでも2月1日に、アブドラ国王が抗議デモを受けてリファイ首相を更迭しています。

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萱野稔人の"超"現代哲学講座 第7回

どうしてサンデルはヒットした!? 萱野稔人が読み解く『これからの「正義」の話をしよう』

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第7回テーマ
「哲学のベストセラー、分配の正義」

[今月の副読本]
『これからの「正義」の話をしよう』

マイケル・サンデル著/早川書房(10年)/2415円
1人殺せば5人助かる状況で、その1人を殺すべきか。前世代の過ちは後世代が償うべきか。正解のない正義をめぐる哲学の問題から格差社会、倫理概念を問うハーバード大学史上最多履修数を誇る名講義を活字化。


 2010年の哲学界で起こった最大のニュースといえば、なんといってもマイケル・サンデル著『これからの「正義」の話をしよう』が大ベストセラーになったことでしょう。10年末の時点で60万部を突破し、哲学書としては驚異的な売り上げです。といっても、決してわかりやすい本というわけではありません(値段もそこそこします)。具体的な事例から政治哲学における本質的な問題を論じていくサンデルの語り口はとても明快で魅力的ではありますが、やはりそれでも難解な本であることには変わりありません。そんな難しい本がここまで売れたというのは、哲学界にとってはちょっとした事件でしょう。もちろんハーバード大学でのサンデルの講義がNHK教育テレビで『ハーバード白熱教室』として放映されたことが、この本の売り上げにとっては大きなパブリシティになりました。しかし、そのテレビ放送だけでここまで売り上げが伸びたのかといえば、決してそうではないでしょう。

 ではなぜ、サンデルの本はここまで読まれることになったのでしょうか? 今回はそれを考えてみたいと思います。

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萱野稔人の"超"現代哲学講座 第6回

反日デモは中国崩壊の前兆? 中国における反日ナショナリズム高揚の真意

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国家とは、権力とは、そして暴力とはなんなのか......気鋭の哲学者・萱野稔人が、知的実践の手法を用いて、世の中の出来事を解説する──。

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第6回テーマ
「中国の民主化とナショナリズム」

[今月の副読本]
『民族とナショナリズム』
アーネスト・ゲルナー/岩波書店(00年)/2520円
イギリス哲学界の巨人が論じた、ナショナリズム研究の古典とされる一冊。政治社会学、社会人類学などの博識からナショナリズムの本質にアプローチした同書は、現代の名著と評され、数多くの分野に影響を与えた。


 9月に起きた尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件では、起訴前に船長が釈放されたことで、「中国外交の勝利」ということがさかんに中国メディアによって報道されました。それを受けて日本でも、政府の外交姿勢を批判する論調が強まり、その過程で海上保安官による衝突ビデオの流出事件まで起きました。しかし、前号でも述べたように、今回の衝突事件がどこまで「中国外交の勝利」だったのかについては、疑問の余地が大いにあります。今号ではそれを、ナショナリズムの問題を通じて考えてみたいと思います。

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萱野稔人の"超"現代哲学講座 第5回

レアアース輸出規制は中国外交の失敗! 資源を政治的武器にすることの是非

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第5回テーマ
「レアアース禁輸措置の逆説」

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[今月の副読本]
『超マクロ展望 世界経済の真実』

水野和夫、萱野稔人/集英社新書(10年)/756円
400年に1度という、いわば、資本主義そのものの大転換期──。現在の世界経済危機とは、単なる景気循環や消費の問題だけではないと説く、異色の経済学者と当連載筆者による、経済の本質を見据える対論。


 中国によるレアアースの事実上の禁輸措置が、日本に大きな衝撃を与えています。今回は、このレアアース禁輸措置から見えてくる、世界経済の動きについて考えたいと思います。レアアースという鉱物資源も、決して哲学的考察と無関係ではありません。
 
 レアアース(希土類)とは液晶テレビやハイブリッド車などの製造に欠かせないレアメタルの一種で、日本はその9割を中国からの輸入に頼っています。いわばそれは日本のハイテク産業を支えている生命線なんですね。その希少資源を中国が禁輸したわけですから、事態は深刻です。きっかけは尖閣諸島問題でした。

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萱野稔人の"超"現代哲学講座 第4回

政権交代は経済成長の行き止まりが原因!? 成熟社会で存在感を増すルール

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第4回テーマ
「国家と市場の関係の転換」

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[今月の副読本]
『定常型社会 新しい「豊かさ」の構想』

広井良典/岩波新書(01年)/735円
日本でいちはやく成熟社会の到来をとらえ、経済成長に変わる「価値」の追及、そして展望される可能性を提示した一冊。成熟期にある現在の日本社会を考えるための古典でもある。


 このところ、「成熟社会」という言葉をよく耳にするようになりました。この成熟社会の現実も「概念によるルール策定」という哲学の問題と無関係ではありません。といっても「成熟社会」という言葉を聞きなれない人もいるかもしれません。「成熟社会」というのは、一言でいえば、経済が成熟化した社会のことです。つまり、電気製品や自動車、住宅といった耐久消費財が社会の中に広く行き渡り、もはや市場経済がなかなか拡大できなくなった社会のことですね。

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萱野稔人の"超"現代哲学講座 第3回

国家は絶対になくならない!? グローバル化する世界でも国家が存続する理由

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第3回テーマ
「グローバリゼーションの中の国家」

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[今月の副読本]
『社会学の根本概念』
マックス・ウェーバー/岩波文庫(72年)/441円
政治、経済、宗教などの分野で多くの社会学的研究を重ねてきた現代社会学の祖・ウェーバーによる"社会学上の概念"を定義づけた論文。研究者の間では未完とされているが、社会学上、貴重な文献である。


 私が権力というものについて考えるようになったのは、もともと、国家の問題を通じてでした。私が学生だった90年代は、まさに国家批判やナショナリズム批判がさかんな時代で、人文思想の世界にいる人たちは、それこそ「猫も杓子も国家批判」という状態でした。そんな中でよく言われていたのは、「このままグローバル化が進めば、国境の壁は低くなり、国家はそのうち消滅していくだろう」ということでした。グローバル化によってヒト・モノ・カネが国境を越えてどんどん移動するようになれば、国家はその動きにのまれてなくなってしまうだろう、というわけです。アソシエーション論や国家民営化論が出てきたのもこの頃です。こうした知的傾向は2000年代前半まで続きました。

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萱野稔人の"超"現代哲学講座 第2回

なぜルールに従わないといけないのか? 根拠付けに必要な哲学

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第2回テーマ
「ルール制定者が世界を制す」

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[今月の副読本]
『政治神学』
カール・シュミット/未来社(71年)/1890円
「主権者とは、例外状況にかんして決定をくだす者をいう」──。あまりにも有名な冒頭の一文を述べ、ナチス政権下のベルリン大学で教鞭をふるったシュミットによる、自由主義に類する法治国家を批判した1冊。


 今回はルールと哲学の関係を取り上げたいと思います。「なぜルールなのか?」と思われるかもしれませんが、日本ではルールというものに対する認識がものすごく低く、それが国際社会における日本の弱さにつながっていると考えられるからです。

 ここでいうルールとは、スポーツやゲームのルールから、法や制度に至るまで、あらゆる規則を指しています。つまり、特定の秩序を支える広い意味での取り決めのことですね。そうしたルールの根底には常に概念の働きがある。前回の講義では、哲学の本質は概念によってものごとをとらえる知的実践の中にある、という話をしました。要するに、概念を用いて世界を秩序立てていくという点で、哲学とルールは密接につながっているのです。

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萱野稔人の"超"現代哲学講座 第1回

学べば頭がよくなる!? 知的実践としての哲学

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第1回テーマ
「哲学とは何か?」

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[今月の副読本]
『権力の読みかた』
萱野稔人/青土社(07年)/1890円
権力関係のない社会はありえない......ミシェル・フーコーがこう説くように、社会は権力を土台に成り立っている。利権、暴力、ナショナリズムなど、権力がうごめく現代社会を、理論的に読み解く。


 僕は大学で"哲学"を教えていますが、ときどき学生から「哲学ってなんですか?」と聞かれることがあります。特に僕の場合、プラトンやアリストテレスに始まってヘーゲルやハイデッガーに至るような哲学史をそのままなぞるような授業をしていませんから、余計に謎なのでしょう。ほかにも哲学というと、最近では、安楽死や尊厳死は許されるのかとか、富者から貧者へと強制的に財の再分配をするのはどこまで正当化されるのか、といった「正義」をめぐる応用倫理学がはやっていますが、そういった話題も僕の授業ではあまり取り上げません。だから学生たちは最初戸惑ってしまうのかもしれないですね。「哲学の授業では(高校までの)倫理のようなことをするのかと思ってた」という学生もたくさんいますから。

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宇野常寛の批評
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批評のブルーオーシャン
『さらば、既得権益はびこるレッドオーシャン化した批評界!』

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『映画を通してズイズイっと見えてくる、超大国の真の姿。』

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佐々木俊尚の
ITインサイドレポート
『激変するITビジネスとカルチャーの深層を鋭く抉る!』


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