青春神話が神映画の域に肉薄! 震災直後の感受性を正確にとらえた園子温の『ヒミズ』
関連タグ : 201202 | ヒミズ | 月光ノ仮面 | 月刊カルチャー時評 | 永遠の僕たち
──低迷する映画業界よ、こんな時代だからこそ攻める映画を! 保守的になりがちな映画業界に喝を入れる映画評。映画を見る前にこれを読むべし!
2012年2月号 MOVIEクロスレビュー
■古谷実vs園子温feat.二階堂ふみ!
『ヒミズ』
監督・脚本/園子温
原作/古谷実
出演/染谷将太、二階堂ふみ、吹越満、神楽坂恵ほか
配給/ギャガ 公開日/1月14日
昨年は『冷たい熱帯魚』に『恋の罪』で存在感を見せつけた園子温が、『行け!稲中卓球部』で知られる古谷実原作を実写化。ごく普通に生きたいと願う少年・住田祐一(染谷)と少女・茶沢景子(二階堂)が、ある事件をきっかけに狂った世界へ叩き込まれていくさまを描く。
【映画文筆業・那須評】
★★★★★★★☆☆☆
大人が子どもに責任を押し付けるな
テンポのよいカット割りにキャッチーなセリフが飛び交う中、父親殺しの長回しが重く効いてくる。園節と時代性が重なり、主演の2人もそれに応えている。ただ、おそらくこの物語に希望を見るのは、主に大人世代だろう。子どもたちに未来を託すのは大人の責任放棄とも言え、当事者である未成年に訴えかける方法としては弱く感じる。また、俗っぽい言葉や役回りをすべて二階堂ふみに負わせ、決定的な行動の動機を女子に頼りきっているのがたまにキズ。
亀梨くん抜擢は正解だった! 注目の脚本家とプロデューサーが魅せた日テレ土曜9時枠の底力
関連タグ : 201202 | ドラマ | 妖怪人間ベム | 宇野常寛 | 岡室美奈子 | 成馬零一 | 日本テレビ | 月刊カルチャー時評
「CYZO×PLANETS 月刊カルチャー時評」とは?
本誌連載陣でもある批評家・編集者の宇野常寛氏が主宰するインディーズ・カルチャーマガジン「PLANETS」とサイゾーがタッグを組み、宇野氏プロデュースのもと、雑誌業界で地位低下中のカルチャー批評の復権を図る連載企画。新進気鋭の書き手たちによる、ここでしかできないカルチャー時評をお届けします。見るべき作品も読むべき批評も、ここにある!
【今月の1本】
『妖怪人間ベム』
岡室美奈子[現代演劇研究]×成馬零一[ドラマ評論家]×宇野常寛[批評家]
──ドラマが全体的に豊作だった2011年秋冬クール。世間的には『家政婦のミタ』が大注目だったが、ドラマ好きの間では『妖怪人間ベム』も放映前から注目されていた。『Q10』や『銭ゲバ』を手がけた日テレ・河野英裕プロデューサーと、『怪物くん』やアニメ『TIGER&BUNNY』で大ブレイクした脚本家・西田征史という組み合わせは、果たしてどう出たか? 異形の存在を描ききった本作から、ポスト3・11のドラマを考える。
宇野 2011年10月クールのドラマは、話題作が豊富でしたね。話題でいったら『家政婦のミタ』(日本テレビ)がダントツでしょうが、今回はあえて『妖怪人間ベム』をテーマにしたいと思います。
成馬 ドラマ好きにとっては、河野英裕プロデューサー(日テレ)と、脚本家・西田征史のコンビがついにきたかということで、かなり期待感があったんです。ただ一般的な層から見ると「また昔のアニメのドラマ化かよ」って感じで、通りが悪かった印象もありますね。
残念なイケメンに萌えて共感する河内遙の『関根くんの恋』
関連タグ : 201201 | さんすくみ | マンガ | 月刊カルチャー時評 | 虎と狼 | 関根くんの恋
2012年1月号 COMICクロスレビュー
■『花男』(はなだん)作者の腐女子学園モノ!
『虎と狼』(5巻)
作/神尾葉子
掲載/「別冊マーガレット」(集英社)
価格/420円 発行日/10月25日
高1の美以(ミー)は筋金入りの腐女子。定食屋を営む祖母と2人暮らしで、調理の手伝いをしているが、常連のイケメン2人が互いを「トラ」「オオカミ」と呼び合うのを聞いて妄想が暴走気味。そして進級した春、新任教師として2人が赴任してくる。親しくするミーだったが、そのせいで同級生の嫉妬を受けるなど、波乱の日々が続く。『花男』作者の新作。
【ライター・高野評】
★★★★★★★☆☆☆
様式美の完成度は高し
「少女マンガ=花より男子」というレベルの代表作を持つベテラン作家の力量を思い知らされた。ツンとした黒髪男子とやさしい白髪男子の配置。教室の冷戦と、戦う女の子への共感。確かに目新しさはないが、様式美として完成している。ちなみに、『花男』の時代から男子たちの関係性にBL的想像力を感じていた身としては、作者自身の告白によってそれを裏付けられたことがうれしい。これって少女マンガのテーゼとして、重大な告白ではないだろうか。
4年ぶりの新刊に沸く『預言者ピッピ』 大幅書き下ろし部分に残る懸念
関連タグ : 201201 | デラシネマ | マンガ | 月刊カルチャー時評 | 足利アナーキー | 預言者ピッピ
──趣味の細分化が進み、ますます男女の垣根がなくなりつつある"マンガ"。いくら売れなくなってきているとはいえ、マンガ大国日本の底力は健在です! 何を読んだらいいかわからない? ならばまずはこれを読め!
2012年1月号 COMICクロスレビュー
■郊外ヤンキー像のアップトゥデート
『足利アナーキー』(6巻)
作/吉沢潤一
掲載/「ヤングチャンピオン」(秋田書店)
価格/560円 発行日/10月20日
北関東は栃木県足利市を舞台に、土着のヤンキー高校生たちを描いた、秋田書店お得意のヤンキーマンガ。むちゃくちゃケンカが強く、強さのあまりヤクザにスカウトされたりする春樹と、その友人で読者モデルの風雅。高校3年生の彼らは、何もない田舎で、日々喧嘩に明け暮れながら、「日本一のギャングになる」を目指す。
【脚本/演出家・麻草評】
★★★★☆☆☆☆☆☆
ここから化けるかどうかな?
『ホーリーランド』っぽい表紙絵からシビアな内容を期待したら、『エアマスター』風味の薀蓄バトルマンガだった。休憩や騙しにスポットを当てる喧嘩シーン等には独特の魅力があるも、『喧嘩商売』を想起してしまえば、魅力も半減する。絵柄を急に変化させるギャグも柴田ヨクサル的で、とにかくマンガとしては未消化な印象。ただし内容の位相がずるりと変化する最新刊の最終ページには注目したい。ここからキメラ的に化ける可能性もある。
『ステキな金縛り』の深津絵里×TKO木下は、三谷幸喜×小林聡美の写し鏡!?
関連タグ : 201201 | ステキな金縛り | ハラがコレなんで | ハードロマンチッカー | 映画 | 月刊カルチャー時評
■喜劇王(?)三谷幸喜の幽霊法廷劇
『ステキな金縛り』
監督・脚本/三谷幸喜
製作/亀山千広ほか
出演/深津絵里、西田敏行、阿部寛ほか
配給/東宝 公開/10月29日
ダメ弁護士・エミ(深津)は殺人事件を引き受けた。被告人(KAN)が「犯行時刻は、旅館で落ち武者の幽霊に乗られて金縛りに遭っていた」と述べたため、旅館を訪ねると、落ち武者幽霊・六兵衛(西田)に遭遇。アリバイを証言してもらうことになるが、誰にでも見えるわけではない彼を、法廷に立たせようと奔走する。
【映画文筆業・那須評】
★★★★★☆☆☆☆☆
幽霊を使うのは禁じ手だったろう
幽霊のいるいない論争を法廷に持ち込んだまではよかったが、それにカタがついた途端にルール度外視の無法地帯に突入。この世とあの世が入り乱れ、切り札に幽霊を使う禁じ手を繰り出された日には腰砕け。にしても、深津絵里とTKO木下の奇妙な男女関係──同棲しているようだが恋人にしては性的な匂いが皆無、友達にしては甘えすぎている──は、2人の仲を劇中では頑なに明言しないことも含め、三谷・小林元夫妻の末期を思わせて後味が苦い。
蛇足と思われた『猿の惑星:創世記』も、ハリウッドの手にかかれば良質のエンタテインメントに!
関連タグ : 201201 | CUT | ミッション:8ミニッツ | 映画 | 月刊カルチャー時評 | 猿の惑星:創世記
──低迷する映画業界よ、こんな時代だからこそ攻める映画を! 保守的になりがちな映画業界に喝を入れる映画評。映画を見る前にこれを読むべし!
2012年1月号 MOVIEクロスレビュー
■SF映画の名作シリーズ・エピソード0
『猿の惑星:創世記』
監督/ルパート・ワイアット
脚本/リック・ジャッファ、アマンダ・シルヴァー
出演/ジェームズ・フランコ、フリーダ・ピント、ジョン・リスゴーほか
配給/20世紀フォックス 公開/10月7日
新薬研究者のウィル。実験対象のメスのチンパンジーが知能を示すが、ある時射殺されてしまう。ウィルは、彼女の子シーザーを引き取る。シーザーも高い知能を持っていたが、ある事件から保護施設へ。そこで彼は進化を遂げる。68年から続くシリーズの新作で、物語の起点となるオリジナルストーリー。
【映画文筆業・那須評】
★★★★★★★★☆☆
進化した猿にはCGの効果抜群
この期に及んでこのシリーズにどんな前日談があるというのか、と眉唾な気持ちでいたら思わぬ快作。進化した猿たちを描くのにCGはうってつけであり、その驚異的かつ新しい身体能力は斬新で、馬に乗る猿などお宝映像も満載。天才猿シーザーが初めて発する言葉のチョイスも見事で、ヘレン・ケラー並みの衝撃はある。何より、自分の能力を不当に認めない世間への怒りと悲しみを滲ませたシーザーの「人間らしさ」にフィーチャーしたのが素晴らしい。
LAMAは「ロッキングオンジャパン」の同窓会? 完成度は高くとも、新鮮味は期待できず
関連タグ : 201201 | LAMA | Perfume | SHINee | 月刊カルチャー時評 | 音楽
──今、本当に注目すべき音楽とはなんなのか? 「ROCKIN'ON」では読めない、新世代による新世代のためのミュージック批評。
2012年1月号 MUSICクロスレビュー
■言わずもがなのテクノポップアイドル
『JPN』
Perfume
発売/徳間ジャパンコミュニケーションズ
価格/初回盤5300円、通常盤2800円
発売日/11月30日
もはや説明不要のテクノポップアイドル・Perfume4枚目のアルバム。今作も中田ヤスタカ全曲プロデュースで、アパレルメーカー「NATURAL BEAUTY BASIC」の本人出演CMタイアップ曲「ナチュラルに恋して」から最新シングル「スパイス」まで、シングル5枚分を含む全14曲を収録している。
【ライター・天井評】
★★★★★★★☆☆☆
Jポップ寄りの仕上がりも必然か
アジア進出やハリウッドでのお披露目は世界への布石と理解したが、有り体にいえばJポップ寄りの仕上がり。同じystk仕事でも、きゃりーぱみゅぱみゅの振り切れたオノマトペに比べ、エレクトロの強調は後退し歌謡性が増した。もっとも、タイアップに拘束された現状で新たな一手は易々と打てるものではない。かたや予め海外への「返答」として生産されるKポップの女性アイドルに対し、あくまで国内マスを意識したこの軟着陸こそ彼女たちの「回答」か。
Wikipedia的でGoogleストリートビュー的な街をハックするお勉強番組の楽しみ
関連タグ : 201201 | NHK | テレビ | バラエティ | ブラタモリ | 宇野常寛 | 月刊カルチャー時評 | 濱野智史 | 速水健朗
「CYZO×PLANETS 月刊カルチャー時評」とは?
本誌連載陣でもある批評家・編集者の宇野常寛氏が主宰するインディーズ・カルチャーマガジン「PLANETS」とサイゾーがタッグを組み、宇野氏プロデュースのもと、雑誌業界で地位低下中のカルチャー批評の復権を図る連載企画。新進気鋭の書き手たちによる、ここでしかできないカルチャー時評をお届けします。見るべき作品も読むべき批評も、ここにある!
【今月の1本】
『ブラタモリ』
濱野智史[情報環境論研究者]×速水健朗[ライター]×宇野常寛[批評家]
──11月から第3期が始まった『ブラタモリ』(NHK)。タモリが古地図片手に街を歩き回るという、一見地味そうだが、足掛け3年続く人気バラエティだ。歩き回る中で街の文化的変遷や地形の変化が浮かび上がるのを楽しむこの番組から、新しい"街の楽しみ方"を考える。
宇野 今月の作品はNHKのバラエティ番組『ブラタモリ』です。08年開始の、タモリが古地図片手に都内近郊を歩く街歩き番組ですね。お2人はこの番組をどう見てますか?
濱野 僕はもともと、紀行番組が好きなんです。『世界ウルルン滞在記』(TBS)や『あいのり』(フジ)はよく観てましたし、今だと『世界!弾丸トラベラー』(日テレ)も毎週観ています。ですが、『ブラタモリ』は紀行番組というよりお勉強番組の色彩が強くて、スタッフが前もって準備するあまり、都市空間が与えてくれる「行き当たりばったり感」が希薄なのが残念です。都市って、要はそうした偶発的な出会いとかが面白いと思うんだけど、『ブラタモリ』は過去に遡行するので「へえ、昔はこんな場所だったんだ」というトリビアを得ることはできても、それ以上の驚きがない。よく比較される『モヤモヤさまぁ〜ず』(テレ東)にしても、「この角を曲がったら、どんなおっさんがいるんだろう」というワクワク感がありますよね。だから『ブラタモリ』は番組としてよくできているとは思いますが、あまり身体的には好きじゃないんです。
ソーシャルメディアで活躍する"さよならポニーテール"は、ポスト相対性理論か? はたまたポスト初音ミクか?
関連タグ : 201112 | YUI | さよならポニーテール | サカナクション | 月刊カルチャー時評 | 音楽
──今、本当に注目すべき音楽とはなんなのか? 「ROCKIN'ON」では読めない、新世代による新世代のためのミュージック批評。
2011年12月号 MUSICクロスレビュー
■福岡ストリート発のスタダ歌姫はどこへいく?
『HOW CRAZY YOUR LOVE』
YUI
発売/ソニー・ミュージックレコーズ
価格/3059円(通常盤)
発売日/11月2日
歌手になりたいと地元・福岡でストリート活動を始め、オーディションで圧倒的な才能を見せてデビュー、一躍人気シンガーへ、と成功物語を歩むYUI。所属事務所スターダストプロモーションの役者が出演するドラマ等への作品提供も多い。本アルバムでは、北川景子主演『パラダイス・キス』の主題歌が収録されている。
【ライター・天井評】
★★★★★★★☆☆☆
代替不可なブランド力を保有する
サイクルの早いギャル演歌に比べ、YUIの支持は根強い。もちろん消費層は異なるだろうが、それは「モード」か「キャラクター」かの違いではないか。歌ってる中身はそう大差ない。が、いわば様式美の前者に対し、同人誌のネタにもされる後者は代替不可なブランド力を持ち得ている。多少の経年変化こそあれ、ファンのYUI像に応え続ける手堅さは揺るがず。優等生的過ぎる面もあるが、実直なほど王道感漂う本作は、キャリアの成長譚として据わりがいい。
映画化も決定した『TIGER&BUNNY』が日本の「貧しいアニメ」の伝統を更新する!?
関連タグ : 201112 | TIGER&BUNNY | アニメ | 日常 | 月刊カルチャー時評 | 花咲くいろは
──大人も楽しめる日本のハイクオリティ・サブカルチャーのひとつ、アニメーション。日々進化し続ける技術と想像力に、どうついていったらいいのだろうか......。アニメの真の魅力を浮き彫りにする新批評。
2011年12月号 ANIMATIONクロスレビュー
■腐女子からアメコミ好きまで熱狂!
『TIGER&BUNNY』
監督/さとうけいいち
脚本/西田征史
原作・制作/サンライズ
キャラクター原案/桂正和
放映/MBS系にて4月から9月
特殊能力者"NEXT"がスポンサーとの契約のもと、その能力でスーパーヒーローとして活躍する都市。ベテランヒーロー鏑木・T・虎徹(ワイルドタイガー)は、新たに所属した企業で、正反対の性格のバーナビー・ブルックスJr.(愛称バニー)とコンビを組むが......。実在の企業とのタイアップの取り込みも話題になった、腐女子激萌えの1作。
【ライター・有田評】
★★★★★★★★★☆
今年最大のダークホースだったかも
ターゲットが今ひとつ不明瞭な、よくある特撮オマージュ系アニメかと思いきや、うまい具合にスポンサーとキャラをマッチングさせた擬人化キャラ的なネタ要素を内包しつつ、海外サスペンスを意識したわかりやすくも先が気になるドラマ作りが秀逸。オタクからライトなアニメファン、はては腐女子まで手広くカバーし、作品の広がりを感じさせる仕上がりだが、本作が深夜枠になる辺りに今のアニメ業界の限界が感じられてしまい、残念でもある。